I went to Bali 14「波と肋骨とわたし」

 私はバリ島に来たらやってみたい事があった。

 

もちろん、バリスパへ行って可愛いおねーさんにマッサージされながらココロとカラダを癒してもらったり

スミニャックビーチのカラフルクッションに座ってビールを呑みながら水平線に沈み行く夕陽を観て涙したり

 

 

美味しいバリ料理をバリバリ食べたり。(笑うところですよ〜)

とりあえずはすべてやってみた。クリアした。満足した。

 

けれど、バリ島といえばあの。。。

日焼けした顔に笑顔を浮かべてあの。。。

 

「バリ島行ってきたんだよ。いい波が来ててさ〜」的な。

「いやーやっぱり波はバリ島だよね」的な?

 

そういう会話を帰ってからぜひともひとつ繰り広げたいと思っていた。

 

そのためにはサーフィン!なにはなくともサーフィン!

ミーファーにサーファー!

 

そこでわたしはK織のボーイブレンドMドゥンがサーフィン教室で教えてるのをいい事に強引に予約を入れた。

ちなみに生まれてこのかたサーフボードどころかかまぼこ板にも乗った事はない。

 

さて、予約当日。いい感じに日当り良好だった。

幸いにもMドゥンのいるスミニャックビーチは遠浅で波も穏やかなので、初心者でも大丈夫という事だった。

 

初心者用の大きめのボードを用意してもらい、さっそくまず浜辺でのレッスン。

ボードを置きその上に寝ころび、波が来た事を想定し、

「GoGoGo! 」と言われたらパドリング(のマネ)

「Up!」と言われたら素早く両手をついて身体を起こし、両足でボードの上に立つ。

 

「GoGoGo! Up!!」

「GoGoGo! Up!!」

「GoGoGo! Up!!」

 

2〜3回やったところで、自分が手をついてすばやく起き上がれない事に気がついた。

腕の筋肉がないので、手の力だけで身体を支えてボードに立つという動作が出来ないのだ。そういえば腕立て伏せ出来ないし。わたし。

 

「えーっと、Mドゥン先生、、、コレはまず筋トレが先なのでわ、、、?」

と不安を隠せないまま振り返って笑ってみたが、日本語がわからない彼は

『ツギ、海ネ』という感じで無言で沖を指差した。

 

「マジですか?。。。」と思いながら、足とボードを繋ぐロープのベルトが足首に固定された。そのボードをMドゥン先生が持ち、2人で海へ入る。

 

その時点でまたある事を思い出した。

「あ、そういえばわたし、海で泳げなかった」

 

正確に言うと、泳ぎは得意なんです。

けど、それは足が底につくプールでの話。

立った時に水の中からちゃんと頭が出ている水深のプールならいくらでも泳いでいられる。クロールも平泳ぎも、バタフライさえも出来る。潜るのも得意。

けど、その水深が深くなったとたんパニクるんです。溺れる気がするの。

たぶん、どこかの前世で溺死したことがある気がする。

 

という事で。海で泳ぐ時には浮き輪が必要だったのに。

浮き輪無しで海へ入るなんて初めての経験。

 

「Mドゥン!アイ、キャント、スイム、ウェル!」

と言ってみたが、相変わらず無表情のMドゥンはどんどん先へ進み

『ン、コノ辺リネ』

という感じでボードを波の上に置いて、乗ってと指示する。

 

こうなったらもう仕方ない。

ごちゃごちゃ言ってないでやるしかないと腹をくくり、

「陸で出来ない事がはたして海の中で出来るのだろうか?」

という疑問が頭に浮かぶのを振り払い、波にゆれるボードの上に必死によじ登った。しばしパドリングをしながら波を待つ。

 

「GoGoGo!」

ボードを浜に向け、必死でパドル。

「Up!」

やはり立てない。

 

「GoGoGo!」

「Up!」

 

ボードにしがみついたまま浜に打ち上げられるか、手をついてそのまま海中に沈むか。。。。

 

何度目かの波で、ボードがひっくり返ってそのまま水中へ落ちた。

思ったよりも水深が浅くて、というよりほとんど水がなくて、いきなり砂の上に左胸から叩き付けられた。

 

落ちた瞬間、胸が痛いというより熱かった。

左胸を中心として熱と痺れが広がって行く。

 

けど、また波が来る。

ボードを拾って、沖に向かって歩き出す。

痛いけど、この時間は決まってるし、今やらねばいつやるの?って感じだったので、痛みは無視した。

 

その後も何度も「Go! Up!」を繰り返すが、いっこうに立てる気配はない。

身体さえ起こせない。そのうち腕が上がらなくなってきた。

さすがに効率が悪いなと思い、Mドゥン先生に休憩を申し出た。

少し休めば筋肉も回復するかも。

 

浜で見ていたK織と交代して、ボードを渡して座る。

海の中にいる時よりも身体の左側全体に痺れが広がってきた。

一緒に浜に居たMドゥンの友達のレゲエマン(と呼んでいる)がコーラをくれたので飲みながらしばし歓談。

 

レゲエマンが「名古屋」を知っているか?と聞くので、

「もちろん知っている」と答えたが、よく考えたらあまり行った事はないので

「名前は知っている」と訂正した。

 

「ボクは名古屋に行きたいんだ。友達が行ったことある」

といいながら砂に地図のようなものを描いてみせた。

それが名古屋なのかしら?と思ったが名古屋の形もよく思い出せなかったので黙って眺めていた。胸がかなり痛んできた。

 

『今日はもう無理かもな。。。』

とさすがにちょっと胸の痛みが普通じゃない感じがしてきたことに、ギブアップの逃げ道を探していたら、レゲエマンがつぶやいた。

 

「ゆっくりでいいよ」

「?」

 

かれはジェスチャーを交え、

「立ち上がる時に焦らなくていい」

「スローリー、モアスローリー」と繰り返した。

 

そうなのか。

Go! Up!のかけ声で、一瞬でボードに立つ絵を想像して、その通りに身体が動かない自分。ゆっくりでいいと言われ、それなら出来るかもと思った。

 

「今日はダメだ〜」と笑いながらK織が海から上がってきた。

「どうする?もう1回やる?」と浜辺に置いて来たボードを指差した。

 

「ちょっと行ってくる」

とわたしは立ち上がり、レゲエマンに向かって

「モア、スローリーね」と微笑んだ。

 

沖の波にゆられいい波を待つ。

なんとなく乗れそうな波も判ってきた。

Mドゥンが「Go!」という前にパドリングを始める。

 

『ゆっくり、ゆっくり』

意識して手をついて上半身を起こす。ボードの上でヒザまで立てた。

 

もう一度。

『ゆっくり、ゆっくり』

 

今度は身体を起こしてヒザ立ちのまま波の上を滑った。

ほんの数メートルだけど、確かに波に乗って進めた。

「波の上を滑るってこんな感じなのか」

初めての感覚に不思議な笑いがこみ上げた。

 

 

「レゲエマンありがとう」

一生懸命やってもなんだかうまくいかない時は、ちょっとその横のドアを開けてくれる人に出会うのがいいのかもしれない。

こっちにちがうドアがあるよ。と教えてくれる人に。

 

次にバリ島に行ってサーフィンをするなら

もちろん腕立て伏せは必須だけれども。

 

ちなみに、日本に帰って関空からすぐ病院に向かったわたし。

診断は「肋骨の骨折」でした。痛いわ、そら。

 

 

 

つづく