I went to Bali 12 「わたしとわたし」

さて、しばらくお休みしてしまった。

続きを書こうと思う。

 

話はギリ・アイル島に戻る。

その夜オギちゃんに別れを告げ、私たちはオバケバンガローに帰った。

帰りしなにK織は明日の朝、海岸通りの船のチケット売り場に行ってみると言い出した。

 

「明日、チケットが買えるならそのままKutaに戻ろうと思う」K織は言う。

 

思っていた程の盛り上がりのないパーティーアイランドであったことも大きいが、それよりなによりK織はKutaで知り合ったボーイフレンドに逢いたくてたまらなくなってきたらしい。

運命の出会いというものがあるのかないのか、彼女はバリ島に来て知り合った男の子と恋に落ちてしまったのだった。

そう、今となってはパーティーなんてどっちだっていいみたいだ。

 

ところで。

自分はどうしよう?

ギリトラワンガン島に比べてギリアイル島はかなりの田舎で、砂浜も海もとても綺麗でのんびりしている。ある意味、この旅でゆっくりしたいとイメージしていた理想の場所に近いかも知れない。美しい自然に囲まれて、騒がしい観光客も少なく大人のリゾートアイランドといった風情だ。

 

 

 私はバリ島に来る直前にそれまで何年か勤めていた会社を辞めた。

何故に?と訊かれても本当に答えようがない。

ただ、すべてはタイミングだった。

 

人生には何度か「変わりゆく時」というのがあって、それは往々にして外からの暗示的な切っ掛けと、自分の中で積み重なってきた何かがスパークするように出会ってしまうタイミングがおこる。

 禅語でいうところの「啐啄同時」というやつだ。

 

何かを思いついてやろうと思った時に、周りの環境や自分の立場、その他いろいろな事が要因で、不可能な事はままある。本人が努力しても出来ない事は出来ない。

けれど、本来なら叶いがたいはずの事が、何の障害もなくスルスルと叶ってしまう時がある。まるでそちらの方向に導かれているように。

そういう時には「そこに向かって進む」事にしている。

考え無しの自分のせいで痛い目は見ても、不思議と後悔する事はない。

 

不思議なタイミングでそれまでの仕事から離れて、少しこれからについて考えようと思った時、仲良しが計画したバリ島旅行に誘われ行ってみようと思った。

 

そんな経緯でその時の私はギリ・アイル島というバリの周辺の小さな島にいたのだった。団体ツアーでもなく、この先どこに行くかも、なにをするかも、明日どこに泊まるかも決まっていない。

同行のK織とは滞在日数がちがうので、帰りもバラバラだ。もとより、彼女は彼女の行きたいところに行き、私は私の過ごしたいところで過ごす、はじめにそう取り決めて出発した旅だった。

 

このブログの冒頭にも書いたが、私にはほぼ初の海外の旅。

そでれそんな旅をしようと思ったのは、その時の自分を試したかったからかも知れない。

 

パーティーへいく前、夕食を摂っていた浜辺のレストランで、暮れ行く海に夕陽が沈むのを眺めながら、とりあえず明日どうするかを私は考えていた。

このままK織は明日の船でKutaに戻るだろう。

わたしはどうしよう?

 

私にはK織のようにすぐさまKutaに戻りたい理由もなにもない。

この島はのんびり出来そうだし、1人で過ごすのも悪くない。

さしあたって、気に入らないのはあのオバケバンガローだ。

一晩だけ、しかもK織と2人ならまだしも、自分ひとりであの部屋で過ごす勇気はない。もし、自分ひとりでこの島に残るなら朝早く起きてちがう宿を探さなければ。それを思うと少しめんどくさかった。荷物を抱えて宿を廻るのはけっこう骨が折れる仕事だ。

 

それに来る時に買ったオープンチケットの事も気になっていた。

私の買ったチケットの船はこの島からは直接出ていないので、Kutaに戻るためには一旦隣のロンボク島に渡るか、ここに来る前に居たトラワンガン島に戻らないといけない。

それに船に乗るには前日に船会社のカウンターに直接行って予約をしないとダメだと言われていた。という事は、いずれにしてもロンボクかトラワンガンでもう一泊はしないといけなくなる。

 

明日朝早く起きて宿を探し、浜辺でのんびりしたとして夜は1人で食事をし、また船に乗ってちがう島に行き、そこでも一泊過ごしてやっとKutaに帰れる。

なんだかとっても面倒になってきた。

それほど自分はここで過ごしたいんだろうか?

日中の砂浜でたいして面白くもなくぼーっと海を眺めてる自分を想像してしまった。

けれど一方ではそもそもそうやって1人で過ごしてこれからの事を考えようと思ったんじゃなかったっけ?友達にくっいて廻る旅に意味あるの?となんだか中途半端な自分を情けなく思う。

 

パダンバイの港から船に乗って3日目。早くもホームシックならぬKutaシックにかかっているK織を横目に見ながら、私のあたまの中ではそんな2つの考えが行ったり来たりしていた。

 

 

次の朝、船会社の開く10時に間に合うようにK織は荷造りをはじめた。私も同時にスーツケースに荷物をつめ直し、2人で船会社のカウンターへ向かった。

船は11時に出発するという。K織はすぐさまチケットを申込み、船に乗るつもりで準備をしている。

昨日までは2人ともこれからどうしようという話だったが、あっという間に相方の行く末は決まってしまった。

 

私と言えば、、、もうこの時既に心細くなってきていた。

ひとりで今夜の宿を探しに行くか。。。

そして前の日の夜、実はオギちゃんにオープンチケットの話をすると、買った値段の半額以上では売れると言っていたのを思い出し、ためしに買い取れるか聞いてみた。

ウチのカウンターでは取り扱わないが、同じ船会社なら買い取るかも知れない。港にその船の会社の男がいるから行って聞いてみろ、と言われた。

 

船が出る時間も迫っている。それにしても急いで港に行って探した会社の男はどう見ても子供だった。英語もちゃんと通じない。

困っているとその側にいた、ガタイのいい悪顔のスティーブンセガール似のオヤジが話しかけてきた。

「このチケットでここからKutaに行く船に乗れる。明日12時に港に来い」

なんだか今まで聞いていた話とぜんぜん違うし、第一目つきが怪しかった。

念のためにチケットを買い取れるか聞いてみた。

買った時の5分の1の値段を提示しながら悪顔のスティーブンセガールが笑った。ぜったいアヤシイこの男。

 

「Okay」といい残し、やはり最初に行った船会社のカウンターに急いで戻った。こっちの兄ちゃんは実は昨夜のパーティーでナンパしてきた男の子の1人だったけれど、話してみるといい人そうだった。この人を信用してチケットを売り、代わりにこの会社のチケットを買い直した。

 

そう。

けっきょく悩んだ末に私の出した結論は、K織にくっついてKutaに戻るだった。

 

船に乗り込み、しばらく黙っていた私にK織が「どうしたの?」と聞いてきた。

 

「私って優柔不断やなと思って」思ってるままを告げると

「そうやな」と身もふたもない答えが返ってきた。

 

 

旅は自分を発見する場。

よく自分探しの旅にでると言うが、自分は探さなくてもはじめからそこにいる。

 

 

自分が本当は何者なのかを気づいてないだけなのである。

 

 

 

つづく